日日是好日

自身が読んだ本についての個人的備忘録のようなものです

葦船ナツ「ひきこもりの弟だった」

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 ラスト、読む人すべての心を揺さぶる。”愛”の物語。

 『質問が三つあります。彼女はいますか?煙草は吸いますか?さいごにあなたは—―』

 突然見知らぬ女にそう問いかけられた雪の日。僕はその女、大野千草と夫婦になった。

互いを何も知らない僕らを結ぶのは、三つ目の質問だけ。まるで白昼夢のような千草との生活は、僕に過去を追憶させていく——大嫌いな母、唯一心を許せた親友、そして僕の人生を壊した”ひきこもり”の兄と過ごした、あの日々を。

 これは、誰も愛せなくなった僕が君と出会い、”愛”を知る物語だ。

 三秋縋氏絶賛!!という文字だけで読みたくなる作品ではあったがそれよりも推薦文の方に引かれて購入。いわく「行き場のない思いに行き場を与えてくれる物語。この本を読んで何も感じなかったとしたら、それはある意味でとても幸せなことだと思う。」

 

出だしの一文が

誰をもすいたことがない。そんな僕が”妻”を持った

である。この一文で「あ、これは自分好みのストーリーだろうな」と薄々感じた。

 

 妻との生活と彼の過去(母、親友、そして兄との)話がつづられていく。彼女との距離が近づくのと同時に彼が母を、兄を憎む理由がわかっていく。彼ら二人を結びつけたのは”三つ目の質問”であるわけだが、彼の過去を踏まえながらそれに想像を膨らませて読んでいくのが非常に面白かった。

 

 後半の物語の展開がまさに怒涛であり、ラストの3ページに関しては文章では追えても感情が全く追いつかなかったというのが正しいだろうか。どうにも言語化が難しいがそれほどまでに受けた衝撃は大きかった。

 

 「この本を読んで何も感じない人はある意味でとても幸せ」と書いてあったがこの本を読んで何も感じない人がいるのだろうか。おそらく読んだ人の信条であったり境遇によって受ける印象はかなり違った物語になるのだろうなとは感じる。

 

 親和的欲求を捨て去ろうとした彼らがたどり着く結論について、是非一度書見いただきたい作品である。

 

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