住野よる「君の膵臓を食べたい」
ある日、高校生の僕は病院で一冊の文庫本を拾う。タイトルは「共病文庫」。それは、クラスメイトである山内桜良が密かに綴っていた日記帳だった。そこには、彼女の余命が膵臓の病気により、もういくばくもないと書かれていて——。
読後、きっとこのタイトルに涙する。
「君の膵臓を食べたい」という一風変わったタイトルによって話題作になった本作。一度読んでみたかったので文庫化されたと聞き購入した。読後最初に思ったことは「確かにこれは売れるな」ということだった。ウェブ小説発ということでどこか一世を風靡した「恋空」や「赤い糸」のようなケータイ小説群とどこか似たような趣を感少し懐かしい気さえした。
”読後、タイトルに涙する”というキャッチコピーは的を射たものであるとは感じた。本作における「君の膵臓を食べたい」というフレーズは作中何度も登場している。
始めは“悪いところがあるとほかの動物におけるその部分を食べることによって治ると信じられていたこと”をもとにした治るために食べたいといった意味合いであったが、登場するごとに意味を変えており読後に抱くそのフレーズにおける感情は確かに涙腺を刺激するものであったと思う。
また、主人公の名前が終盤まで明かされることがないのだが、彼を周りの人が呼ぶ際には“【クラスメイト】くん”のように主人公から見た相手がどのように自身のことを思っているかを想像した呼び方に置き換えられていることで彼自身からみた相手を想像できるのは非常に面白い試みであった。