日日是好日

自身が読んだ本についての個人的備忘録のようなものです

三秋縋「いたいのいたいの、とんでいけ」

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自分で殺した女の子に恋をするなんて、どうかしている。

「私、死んじゃいました。どうしてくれるんですか?」

 何もかもに見捨てられて一人きりになった二十二歳の秋、僕は殺人犯になってしまった——はずだった。僕に殺された少女は、死の瞬間を”先送り”することによって十日間の猶予を得た。彼女はその貴重な十日間を、自分の人生を台無しにした連中への復讐に捧げる決意をする。

「当然あなたにも手伝ってもらいますよ、人殺しさん」

 復讐を重ねていく中で、僕たちは知らず知らずのうちに、二人の出会いの裏に隠された真実に近づいていく。

それは哀しくも温かい日々の記憶。そしてあの日の「さよなら」。

 ”先送り”によって復讐の時間を手に入れた少女の手伝いをすることになるが、あまりにも空虚な復讐であり、復讐劇にしては爽快感からはほど遠い作品。読み進めるごとに被害者の層に違和感を覚えるがそれ自体が物語における核心へとつながっており、読んでいて非常に面白い。

 

 著者の三秋縋さんの作品に通じていえることだが登場人物、特に主人公とヒロインの背景、人物設定がどうしようもないくらいに救われない。だからこそ、物語自体は鬱々とした展開になっているものが多いように感じるが、その中で彼らが得るものに言いようもない美しさを感じられる。はたから見たらどん底にいるはずの主人公たちは、そのどん底の暗い中で、これ以上ないくらいに幸せで、そしてそれを享受していることに満足しているような物語。

 

  ”薄暗い話なのに元気が出る話”彼が描きたかった話であるらしいがこれほどこの作品における紹介が合う物語も他にないのではなかろうか

 

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